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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(し)64号 決定 1951年4月13日

主文

原決定及び大阪高等裁判所が昭和二五年七月二六日申立人に対して為した控訴棄却の決定はこれを取り消す。

理由

弁護人妻木隆三の特別抗告理由について。

記録を調査すると申立人は昭和二四年一二月一七日大阪簡易裁判所で窃盗罪により懲役二年に処せられ、同日控訴の申立をし、なお同日同簡易裁判所の保釈決定があり保釈中のものであるが、昭和二五年七月二六日大阪高等裁判所で控訴趣意書を提出しないという理由で控訴棄却の決定を受けたが、同年九月二五日右決定に対し異議の申立をした。ところが同年一〇月二一日同裁判所は異議申立棄却の決定(原決定)をしたものであることは明らかである。而して原決定の理由は右保釈決定によれば申立人の制限住居は大阪市生野区南生野町五丁目百二十三番地であって、その後制限住居の変更が許可された証拠なく、刑訴規則六二条一項によれば被告人は書類の送達を受けるため書面でその住居又は事務所を裁判所に届け出なければならない。若し右届出をしないときは同規則六三条によって裁判所書記官は書類を書留郵便に付してその送達をすることができ、その送達は書類を郵便に付したときにこれをしたものとみなされる。然るに申立人はその届出をしていないので、昭和二五年六月二日申立人に対する控訴趣意書提出最終日を昭和二五年七月五日と指定した催告書を書留郵便に付して申立人の保釈制限住居に送達したのであるから、右催告書は右六月二日申立人に送達したものとみなされるのである。それゆえ申立人の異議は理由がないというのである。しかし本件記録によってみると本件保釈決定原本と申立人に送達されたその謄本とでは、その内容に重大な相違があるのである。原本では保証金額一万円制限住居は大阪市生野区南生野五丁目百二十三番地であるのに、謄本では保証金額二万円制限住居は大阪市生野区鶴橋北ノ町三丁目二百十九番地玉田アイ方となっている。そして右のような重大な相違を来した原因の詳細は大阪簡易裁判所沢上席判事の回答書(抗告事件記録八丁)に記載されているのであるが、要するに林書記官補の過失に基因するのである。従って大阪簡易裁判所のした保釈決定は被告人に適法に告知されていないのである。一方、申立人は誤った謄本の交付(送達)を受けこれを原本に符合した正しい決定謄本と信じその謄本記載の如く保証金二万円を納付し、謄本記載の制限住居に居住していたのである。してみれば大阪高等裁判所が本件控訴趣意書を差し出すべき最終日指定の通知書を申立人に送達するにあたって、前記のとおり、保釈決定原本記載の制限住居に宛てこれを送達し、それが送達不能になったため、更に右住居に宛てて郵便に付する送達をしたとしても、右郵便に付する送達は刑訴規則六三条の要件を具備しない不適法のものであり、且つ申立人は前記のように謄本の制限住居に居住しているため原本の制限住居に宛ててなされた右通知書は、申立人には現実にも到達していないのである。しからば本件において控訴趣意書最終日を定めた催告書は控訴申立人である申立人に送達されなかったものであり、従って大阪高等裁判所が控訴趣意書不提出の理由で控訴棄却の決定をしたのは違法であり、また原決定が、申立人の異議申立棄却の決定をしたことは違法である。ところが特別抗告については刑訴四〇五条に規定する事由のあることを理由とするときに限り許されるものであって、申立人は憲法一一条の違反があると主張するのであるが、前記説明のとおり原決定は刑訴規則六三条の解釈を誤った違法はあるが、これをさして憲法違反の問題であるということはできない。しかしながら本件における手続の誤りは結局保釈決定原本と謄本との相違に基因するものであり、従って裁判所内部の過誤によるものである。それゆえ本件のような場合に原決定を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められるのである。そして最高裁判所が正義を維持するために発動する職権破棄権は本件のような場合には当然にこれを保有するものというべきであるから、本件特別抗告については、刑訴四一一条の準用があるものと解するのが正当である。従って原決定及び控訴棄却の決定はいずれもこれを取り消すべきである。

よって、刑訴四三四条四二六条二項により主文のとおり決定する。

右は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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